わりと『グッドラック』への検索が多かったので、加筆していたら全く別物になってしまいました。
よって新規記事扱いということで、今日は『グッドラック』の話などを。
松本明子さん演じるパチンコ屋の2代目オーナーが、父から受け継いだ店を立て直していくお話。
そのパチンコ屋の土地を地上げして、跡地にショッピングセンターを建てようとしているゼネコンの若手エース(豊原功補さん)との戦いが主にストーリーの軸となっています。
基本的に1話完結で、たとえば「店に客が一人も来なかったら店を明け渡す」という勝負をさせられたり、関西のパチプロ集団に店を潰されそうになったりと、毎度毎度「もうこの店も終わりだ」というピンチを、亡父の名望・下町の情・そして伝説のパチプロ(佐野史郎さん)のアドバイスで跳ね返していくわけです。
さらに、これに絡み合うのが姉妹&兄弟対決。
父から受け継いだ店を潰したくない姉と、パチンコ屋なんか大嫌いという妹(秋本祐希さん)の葛藤、人生設計バッチリのゼネコンの若手エースの兄と、打ち込めるものがないまま何となくパチンコ機器の営業になった弟(原田龍二さん)のライバル関係。しかも後に姉は弟とひっつき、兄は妹とひっつくという、「一体ナニ兄弟っていえばいいんだ」という恋愛ドラマとしての展開なんですね。
セリフ廻しも意外とシビアです。
「どうせ行き場所なくしてる女よ、私は。短大出て、OLやって、年収600万程度の男みつけて、結婚して、子供産んで育てて、いつかはどこかにマイホームなんていっちゃってさ。その程度の現実が夢だと思い込んで。それも無理ならもう行き場所もない。わかってるわよ、こんな女がパチンコ屋のオーナーだなんて、ちゃんちゃらおかしいと思ってるんでしょ!」
(松本明子さんのセリフ)
「お前は、子供の頃から何も変わってない。その場その場で流されて、本気で打ち込めるものを見つけられもしない。自分が本当は何が好きで何がしたいのか、お前は自分でも分かってない。お前にははなっからビジョンも夢もない。違うか?」
(豊原功補さんのセリフより)
ああ耳が痛い、耳が痛い。
『王様のレストラン』のヒットの後だけに、その影響を感じる箇所も若干ありますが、次の3点において大きく異なります。
・専守防衛であるということ
人材資本のフレンチレストランと異なり、こちらは新台入替もままならないパチンコ屋であるため、基本的にカタルシス部分は「今回も閉店をまぬがれた…」という安堵感と、パチンコを愛する下町のお客さんによって助けられたという部分に集中しています。
店は最初から最後まで大きくはなりません。
・敵(地上げ屋)がいるということ
主人公が経営する「飛鳥球殿」を潰して、跡地にビルを建てようとしている豊原功補さん演じるゼネコンのやり手幹部が、毎回あの手この手で邪魔をしてきます。
これを、仲間との友情や、伝説のパチプロのアドバイスによって撃退していくわけです。
もうお気付きかも知れませんが、ドラマの作りとしては『様レス』より実はこっちのほうが普通です。
しかし、日テレドラマ特有の画面の安っぽさとでもいいましょうか、これに輪を掛けて舞台のパチンコ屋がやたら汚いので、『王様のレストラン』とは全く異なるミョーな「味」が出ているのですね。
これはおそらく、90年代作品特有のものです。
店内の自販機は古めかしい、家電の中途半端な新しさ(ハードオフのジャンクコーナーで、テープの剥がし跡が真っ黒けになっている感じのプラスチックの扇風機。今ならメイドインチャイナでももう少し洗練されている。例えるなら、ビレバンで売ってる7色に光る丸い加湿器みたいな、あの系譜)、駅メロの聴こえる薄暗い事務所(今なら従業員5人いればパソコンの一台は最低限ありそうなものですが)、どこもかしこも、いい感じに古めかしいんですね。
『沙粧妙子』の記事でも書きましたが、昔の作品はそういう部分を見るのも楽しいものです。
あとは何でしょうか。
・恋愛ドラマのエッセンスが、やや『様レス』より強い
という点も指摘しておきましょう。
「立て直し人にヒロインがホの字で、その子に片思いの男がいる」という図式はどちらも同じですが、こちらは割りとしっかり恋愛ドラマをやってくれています。
『様レス』は小6ぐらいの淡い恋ですが、『グッドラック』は役者さんも男前で、わりとしっかりした恋物語を見せてくれるんですね。
といっても、トレンディが英雄本色ではない日テレドラマなので、もう取って付けたというしか言いようのない、
・歩道橋での松本明子さんと原田龍二さんの告白シーン
・それを妹(秋本祐希さん)が見つける
・病身の豊原功補さん(妹の今カレ)が、息も絶え絶えに追いかけてくる
・そこに豊原さんの元カノ(吉村美紀さん)が現れて立ちふさがる
・歩道橋の階段で妹ともみ合いになり、突き落とされる
・その騒ぎに松本明子さんたちが気付いて告白シーンが止まる
俺が個人的に好きなだけで、ものすごい及第点ドラマだと思います。
氷室京介さんの『SQUALL」も、エンディングテーマとして大変ノリがよい(エンドロールに入る手前、画面がモノクロになって雷の音がする演出も、ちょっと古いけどいいじゃないですか)。
佐野史郎さん演じる伝説のパチプロ「ぶっこみの竜」がえらくカッコよく、この方特有のノソ~っとした影のある歩き方が、ちょっとたけし歩きっぽくって(衣装もちょっと似てる)、パチプロの裏世界感が出ていて良いのですね。
不治の病気が発覚したり、夢である都市開発計画が頓挫してからの豊原功補さんの狂気と脆さも、なかなか人間的なライバルで良いと感じました。
しかし、9話以降の「とってつけて何とかなる展開」はいささか。
本当にあと1話ぐらい必要だったんじゃないかなあ。
「カネがない、従業員に給料も支払えない」とぼやくわりに、話運びがご都合主義すぎて、「いいように脚本書いてもらえばいいじゃん」と感じてしまうのはいささか、でしたね。
『グッドラック』の劇中では、主人公の妹が「パチンコをやる人間にロクなのはいない」と言ったり、フロアスタッフの離婚調停中の奥さんが「パチンコに家庭を壊された人間の気持ちが分かるか」と言ったり、俺だけではないだろう世間一般の認識を語ってくれます。
こういう、きちんと「パチンコ礼賛ドラマ」になっていない&常識論を唱えるキャラクターがまさに常識人であるという点も、良くできていると思います。
Author ウェブデザイナー久川智夫
せっかくなのでこちらの記事もご覧ください
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