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2014/

7

24

Thu

沙粧妙子-最後の事件- DVD のレビューとか感想とか

ドラマで「○○が怖い」言う人がたまにいるけど、本気で怖がってるやつっているのか?編

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本当は怖い沙粧妙子

ザックリとお話しますと、主人公の沙粧妙子(浅野温子)は、プロファイリング捜査を仕事とする刑事で、ある猟奇殺人事件からストーリーは始まります。
 
表に現れた犯人は別人(香取慎吾)なのに、犯行の手口が、かつての同僚で恋人だった梶浦(升毅)を連想させる。どうやら梶浦が裏で糸を引いているらしい。
快楽殺人者(香取くんのほか、国生さゆり・柏原崇など)との戦いと、それを操る梶浦を引きずり出すための推理という、ふたつの流れを軸にストーリーは進んでいきます。
 
余談ですが、主人公がキャリアウーマン風の女性であり、猟奇殺人者との面会シーンなどを共通項に『羊たちの沈黙』とダブらせる方をたまにお見受けします。が、実はふたつは『あしたのジョー』と『はじめの一歩』ぐらい違います。はいここアンダーライン。
『羊』は殺人そのものに主眼を置いていますが、『沙粧』は主人公とかつての恋人との恋愛モノです。ちゃんと佐野史郎という恋敵も出てきますからね。

時代背景

はっきり言って、もうこの作品は地上波でオンエアできないと思います。
ましてや、水曜9時(!)なんていう時間帯には絶対に。
ベタな言い回しですが、現実がフィクションに追いついてしまった上に(酒鬼薔薇事件はこの3年後)、自主規制が厳しいといわれる今のテレビでは無理がある。
 
『ごっつ』に対するダウンタウン松本さんの弁ではありませんが、今後こういう作品が作られないというのなら、誰にも塗り替えられることなく、金字塔として永遠に輝き続けるわけです。
 
その後『ボーダー 犯罪心理捜査ファイル』(中森明菜)、『ケイゾク』の後半部分などで似たような試みが為されますが、総合的にみても格が違うかな、という印象があります。個人的には『ケイゾク』のほうがハマりましたけれど。『ケイゾク』はフリークのつくカルトドラマですが、『沙粧』にはオタクっぽさはありません。

11話のうち犯人は4人

梶浦によって思考を誘導され、殺人者に堕ちていく人々――といっても、ここがかえってフィクションの中に強いリアルを感じるのですが、梶浦の傀儡って11話完結の中に3人しかいないんですけどね(4人目が梶浦の関わっていない亜種で、ここから事件は急展開する)。
 
派手さやテンポを考えると1話完結で毎回違う殺人者が出てくるほうがお話としては盛り上がるのでしょうが、梶浦によって洗脳※ された人たちは意外と少ない。
 
犯人が少ないだけにその3人の背景が濃くて、梶浦に操られることになった背景、動機、犯行パターン、そして用済みになった彼らを梶浦が始末するまでが、丁寧に描かれている。
さらに、沙粧の梶浦への執着が異様なまでにしつこく描かれていて、お話として実に背骨が太い。「ありえない話」を、ディティールを細かくすることで「ありうるかも」と思わせる点は見事というほかありません。
 
子供向けの推理モノなどでよく「トリックはよくできてるけど…動機に説得力がない」という作品がありますが、こちらはその逆です。超能力ともいうべき信憑性の低いマインドコントロールに、ドロドロとした動機がうまく絡んでいて、おいしいハーモニーになっているわけですね。

洗脳と潜在催眠のリアル・非リアル

※ 洗脳――これがまたビミョーなところで、「殺人者の適正を見定めて巧妙に殺人の快楽を教え込んでいく」というのが彼の手口なのですが、催眠術とも、見ようによっては超能力ともとれる能力が出てきてイマイチ判然としないのも不気味なところです。
 
よくオフィスに置いてあるような分厚いコクヨのファイルに精緻極まるデータが書かれていて「梶浦はこれを使って操っていたのかー」なんて天才っぷりを視聴者にアピールする反面、とある刑事に「潜在催眠」とかいう超魔術をかけて「ゲームの音を聞くとゲーム狂いになる」だの、「自分が殺したと信じ込んでいたのに実はニセの記憶だった」だの、ちょっとスタンド入ってるじゃないか、という技まで登場する始末。
ちなみにこの強化版を使えるのが『ケイゾク』の朝倉です。
※ 『SPEC~結~』においてこの朝倉は地球意志というか、シリーズ通したトリガーみたいな扱いにされていましたが、こじつけられる前の朝倉と考えてください。

意外とよく泣く沙粧さん

沙粧妙子には「クールな女」という表のキャラクター付けがあり、新米刑事の松岡(柳葉敏郎)が軽口を叩くたび、沙粧の皮肉な一言がゴクッと笑いの空気を飲み込んでしまいます。
 
が、久しぶりに全話を通しで観てみますと沙粧さん、意外と表情豊か。犯人を追い込むとき、殺人者と同化して犯行の瞬間を想像するとき、彼女は口角をグイッと上げて、実にかわいらしく笑うんですね。
 
そして、彼女の表情が最も豊かになるのは、かつての恋人であり今は追い詰めるべき対象となった梶浦を追想したり、幻覚で梶浦に会ってしまったとき。とにかく取り乱してよく泣くんです。
 
字面に起こせば「クールな女」というキャラクターながら、「正直で動揺しやすく男に一途」というもうひとつの顔が、彼女をナントモ愛されるキャラクターに仕上げています。
 
同じ刑事ドラマから例を引きますと、『相棒』の右京さん(水谷豊)や『古畑任三郎』なんかでも、キャラクターを字面に起こすと「ミーハーで慇懃無礼」とでもなりましょうが(右京さんの場合これに「知識をひけらかすイヤミな奴」というのも加わります)、細部に愛される要素がたくさん埋め込まれている。幽霊を信じていないくせに幽霊を見たがったり、妙に落語に通じていたり、右京さんはかわいらしい。そして沙粧さんもまた、カッコイイだけじゃない人間味に溢れたキャラクターなんです。

20年前の作品を観る前の「心の準備」

それにしても、もう放送から20年経っているんですね。
初めて自分が見たのは『帰還の挨拶』直前の再放送で、1997年のことでした。
中1~2の、今から思い返してもキャ~ってなる時期だったのですが、ああもう思い返しても恥ずかしいのでやめておきます。沙粧が薬ビン持ち歩いていたのでマネし…
 
中2病フォーーー!
 
「さすがに時代を感じるな」のボーダーラインはこのへん(1994年ぐらい)でしょうか。
確かに衣装の端々が古いっちゃ古いのですが、ワンレン・ボディコンのぶっとい眉毛が出ているわけでもなく、ギリギリ違和感なく観ていられるという。
それにしても国生さゆりさんは美人ですよね。今のポジションでいうと誰ですか。同じ秋元組でいうと板野さんですか。広末涼子さんの肩のむちむち感もたまりません。
逆に、3~4年後先の『踊る』で出てきたような、ガングロやルーズソックスを観るほうがしんどいかも知れません。これは観る人の世代によりますかね。
 
20代でこれからご覧になる人たちが身構えておくべきは、CGのショボさと、携帯電話の扱いぐらいでしょうか。あと、クルマに詳しい方はパトカーの車種。もう旧車會ぐらいにしか在庫のない年式のクラウンで街中を走り回っていますぜ沙粧さん。
 
それ以外の刺激は、今の刑事モノより全ッ然強くて優れています。
「昔のテレビは良かった」と、お年寄り連中は昔から言っていた気がするので、あまり真に受けないようにはしているのですが、間違いなく「沙粧の前に沙粧なし、沙粧の後に沙粧なし」とだけは言えると思います。

DVD版は買いかな

自分が初めて観たのはテレビの再放送で、VHS版を借り直して観ましたが、DVD版はそれとほぼ同じもののようでした。
VHSやLDで納得された方は、改めて買わなくてもいいと思います。4巻の付録になっている脚本の飯田譲治さんのインタビューも、正直「たぶん1時間ぐらい喋ってたんだろうけど言葉つないで実質5分もないぐらい」のものですし、それならご本人のツイッターまとめのほうが興味深い裏話に満ちています(佐野史郎さんの「あぶない…」がアドリブだった話など)。
 
あとは、版権BGMの若干の差違ぐらいでしょうか。
外伝にあたる『帰還の挨拶』は本放送を観ていたのですが、たしかラストの酒場のシーンはマドンナの歌入りの「ラ・イスラ・ボニータ」が流れていて、この追懐シーンには実に効果的だと感じていたのですが、それが差し替えられていたり、Amazonのレビューなんかを見ていると「毎回エンドに使われていたLADY LUCKが巻末しか聴けない」といった書き込みがされていて、「残念…まあ仕方ないけど」といった点が気になりますかね。
 
ロッド・スチュワートの「LADY LUCK」は、正直VHS版でまとめ見した俺にとっては「なんか合ってねえテーマ曲だなあ」といった印象なのですが、なるほど本放送で毎回エンドで流れていたとなると、愛着がわいてピッタリ感が出てくるのかも知れません。
 
サントラも名曲揃いです。
ぜひ入れてほしかった未収録曲も何曲かあるのですが、たぶん劇中未使用と思われる「NIGHTFALL IN THE CITY」がまた凄く良いので、手に入れられる方はぜひ……というか、メインテーマだけでもシビレるよなあ。
刑事モノのメインテーマで『太陽に』とタメ張れるのは『沙粧』ぐらいしかありませんよ(持論)。
 
メインテーマはこちら。1:06あたりから
 
逆に、次の挿入歌2曲は、よくまあそのままOVAに入れられたもんだなあと感心する次第です。
 
Where Are You Going?(日置のテーマ曲。9年探した)
Sour Times(池波のテーマ曲。11年探した)
 
レンタルされる方は、TSUTAYAのアプリで調べてからお出かけになってください。
戸田公園のTSUTAYAにはありませんでした。
が、中目黒のTSUTAYAにはありましたよ(なんつう個人的な報告だ)。

この作品にまつわる俺のオススメ

Author ウェブデザイナー久川智夫

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