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2006/

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Sun

ガンダムの歴史 (09) 『機動戦士Vガンダム』(ザンスカール戦争)

U.C.0153 侵略者に眠れる獅子が立ち上がった

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このページは、久川がかつて1999年に立ち上げてクローズした趣味サイト『GUNDAM DICTIONARY WEB』のリサイクルページです。
なお、このコラムの執筆は2006年であり、その後に発表された作品の中で塗り替えられた設定等があるであろう旨、ご考慮いただいた上でお読みください。

 
木星戦役により連邦政府および軍の地位は完全に失墜し、最早彼らに従おうとする者はどこにもいなかった。
それから7年後の U.C.0140、コロニーには「戦国時代」が到来する。
 
経済格差を理由にコロニー同士が争い、そして地球に対しては自治権を要求する――。各地でコスモバビロニア建国戦争のようなものが幾度となく繰り返され、まさに混沌の時代が訪れていた。
 
そんなささくれた時代を背景に、一人の道を説く女性が現れる。
その人の名をマリアといい、彼女は祈りで病人を治療したり、人々の憂いを慰める力を持っていた。優しくも神がかり的な彼女の力は、様々な人間を惹き付けてやまない。ついには宗教団体として自立し、信徒の数は日々膨れ上がっていった。
 
しかし、その中には救いを求める者ばかりでなく、彼女を政治利用しようとする者もいた。その名はカガチ。彼はこのとき、サイド2・アメリア政庁の一議員に過ぎない。しかし、マリアと接触後の彼は、教祖マリアというバックボーンと自らの政治的手腕を駆使し、ガチ党を政庁与党にまでのしあげてしまうのである。
 

閑話休題「世相を映すガンダム~代理戦争から民族紛争へ」

現実の世界において、ヨーロッパの国々はキリスト教を重んじるが、法皇は別個に存在し、我が国もまた、立憲君主制の下で天皇は祭祀を担う。近代、政教分離を最初に掲げたのはアメリカであったが、それは多宗教・多民族をひとつにまとめる為であり、マリア主義のようなカルト団体を国教とし、支配の根拠とした国家は、現実の世界においては未だ無い(マルキシズムをひとつの宗教として考えるなら別だが。また、それっぽい都市は世界中にあるが、中央の統制に服していないわけではない)。
 
カガチの手口は、コロニーという多民族国家をまとめる画期的な新手法である。国内に多くの民族を抱えつつイスラムというバインダーで国家たりうる国は中東に多いが、この逆を、カガチは思い付いたのである。
 
ダイクンのジオニズム、マイッツァーのコスモ貴族主義など、思索で国を建てた先人は存在したが、この宇宙世紀に宗教で国が建てられるとは誰も思わなかったに違いない。あのコスモ・クルツ教団とて、所詮はコスモ・バビロニアの添え物に過ぎなかったのだから。
 
これは、『V』が作られた時代背景も考慮に入れるべきだろう。多くの共産主義国家が崩壊し、冷戦が終わった 1993 年頃、まさに『V』の舞台となった東欧では、民族主義が台頭。政治的イデオロギーだけが戦争を起こすのではない、民族・宗教が戦争の主因たりうると、人類に太古の記憶を呼び起こさせた。

 
この急成長の生贄となったのが、アメリア政庁の反対勢力議員だ。
カガチに目を付けられた彼らは、贈収賄行為に対する裁きとして、ギロチンに架けられてしまった。
この宇宙世紀にあってギロチンによる処刑とは、驚くべきクラシックな手口である。
 
このまさに「血の粛清」は、民衆全てを見事に震え上がらせたが、これに怒りを覚える者も少なからず存在した。
彼らは、恐怖政治とそれに伴う民衆の沈黙に抵抗するため、地下組織リガ・ミリティアを結成。
しかし、それから一年としないうちに、カガチはサイド2に一大国家をぶち建ててしまう。
 
その名をザンスカール帝国といい、教祖マリアは今や女王マリアとなってコロニー社会に君臨、カガチ自らも宰相の座に就き、その権勢は今や揺るぎないものとなっていた。
 
その後、リガ・ミリティアはアメリアから逃亡。
東ヨーロッパや月面都市に降りて抗戦を続ける。
 
他方、ザンスカール帝国に従わない「サイド2連合」という組織の動きもあったが、リガ・ミリティア同様、旧式の連邦軍MSを使った民間組織によるパルチザン運動、といったレベルに留まっていた。

Vガンダム・前半のストーリー

ザンスカール帝国の狙いは、地球への武力侵攻と支配である。
 
ドゥガチの反乱、宇宙戦国時代の到来で統制と実行力を失っている連邦の隙を突き、東ヨーロッパに降下したのは、ベスパ機関のイエロージャケット隊であった(ちなみにこのベスパ機関とはザンスカール国軍とほぼ同義で、その統帥権はカガチの下に置かれている)。
 
イエロージャケットは多くの都市を空爆、虐殺を繰り返す。
これに対抗できる連邦軍はもはや無く、ベスパ機関と戦ったのは、東欧リガ・ミリティアのリーダー・ニュング伯爵であった。
 
彼ら部隊は新型ガンダムを使い、イエロージャケットにゲリラ戦を仕掛ける。
はなから勝つつもりなどない。「連邦軍に喝を入れることができればそれで良い」という考えの下、必死の抵抗を続ける。
 
その後ニュング伯爵は、イエロージャケット司令のファラ中佐によってギロチンに架けられてしまうが、しかし彼の遺志は確実に宇宙にまで届いていた。
 
連邦軍の謎の部隊・バグレ隊の蜂起である。
彼らは、ザンスカール第二の将軍として恐れられるタシロ大佐の宇宙要塞カイラスギリーに攻撃を仕掛けた。が、艦隊の守りは厚く、バグレ隊は辛くも壊滅する。
 
抵抗派リガ・ミリティアの代表人物をギロチンに掛け、そして連邦を退け、この直後には仇敵サイド2連合も撃砕――。ザンスカール神話の現出である。
しかし、この最初にして最後のベスパ最盛期は、リガ・ミリティアの二隻の艦艇によって終わりを告げた。
 
司令官のジンジャハナムは、たった2隻でカイラスギリー攻略艦隊を編成、前方の一隻にリモコン爆弾をセットし、無人のままカイラスギリーに突っ込ませ、タシロの心胆を寒からしめる。
そしてその直後、爆発の影から現れたのが、ジンジャハナム自らが乗り込む斬り込み艦であった。彼はそのまま艦をタシロの乗る旗艦に接舷、これとカイラスギリー、ふたつの獲物を捕らえることに成功する。
 
宇宙最強の大砲・カイラスギリーが陥ちた!
その後カガチはこの失態をカムフラージュすべく、帝国第一の将軍として無敗を誇るズガン将軍をサイド2連合にぶつけ、これを打ち破っている。
その一方で、敗れたタシロはギロチンによる処刑を宣告される。
 
そしてこれを機に、カガチの地球侵略は次なるステップへと移った。
地球クリーン作戦がそれである。
 
これは、大型のタイヤを付けた戦艦をロードローラーに見立て、地球を走らせ、地上の都市を踏み潰さんとするものであった。
 
しかし、この突飛な作戦はリガ・ミリティアの必死の抵抗に遭い失敗。
結局、連邦政府との突然の停戦条約により、艦隊司令のクロノクル、作戦参謀のピピニーデンは、失意のうちに宇宙へ帰還。
次なる指令を待つことになった。

Vガンダム・後半のストーリー

一方その頃カガチは、国運を賭した最後の作戦を発動させようとしていた。
その名もエンジェル・ハイロゥ作戦――。
 
これこそが彼の悲願であり、かつてシロッコやドゥガチと同じ木星船団に所属していた彼が、木星より長年掛けて運び出した資財を使って繰り出す最後の作戦であった。
 
天使の輪に見立てられた黄金色の要塞は、マリアの祈りによって、人々に戦いを忘れさせるオーラを放つ。憎しみのない平和な世界こそをマリアも望んでいただけに、彼女も進んでカガチに協力した。
 
だが、無垢なマリアは知らなかった。
このエンジェル・ハイロゥから発せられるサイキック・パワー(超能力の念波のようなもの)は、サイキッカー(ニュータイプの能力を持つ民間人)によって増幅され、人々は戦いを忘れるどころか生物としての退行を起こし、深い眠りに就いてしまうのだということを……。結局、カガチが狙っていたのはこれだったのだ。
 
つまり、刃で死ぬか眠り死にするかの差こそあれ、カガチの行為は鉄仮面の虐殺と何ら変わらぬ、冷酷なものだったのである。
 

閑話休題「ジオンにあった正義、ザンスカールにない正義」

かつてカルト的な思想に取り憑かれた国が、自国民を 2000 万人も殺す出来事が現実に起きたが、地球圏の制圧を狙うカガチは、いずれは自国民となるはずの地球市民を皆殺しにするつもりだったのだろうか。
 
アニメ的演出ですよと言われてしまえばそれまでだが、北米を制圧したガルマは、現地の有力者を取り込む努力を怠らなかったし、『ムーンクライシス』に登場したテロリスト集団・ヌーベルエゥーゴにも、地球の政財界との繋がりがあるため、手が出しにくいという設定があった。宇宙世紀も150年を過ぎると、そんなの関係なくなっているのかも知れない。
 
地球クリーン作戦もエンジェル・ハイロゥ計画も、威圧ではなく本当に「口減らし」作戦であった可能性が高く、ドゥガチの暴虐をおそらく近くで見たであろうカガチには、もはや殺人に対する抵抗感が無くなっていたに違いない。
 
そう考えれば、ジオン軍には独立という大義があって、そのための闘争だったことを考慮すれば、カガチや鉄仮面に比べると、ギレンは多少はマシな冷徹漢だったとも思えてくる。ジオン軍には一面の正義と同情すべき点があったが、イエロージャケットやベスパにはそれが全く無いのである。
カガチの起こした戦争は、地球市民に対するホロコーストなのだ。
 
2015年追記。近年『クロスボーン・ゴースト』において、カガチの狙いについて再解釈が展開されており興味深い。彼が継ごうとしているドゥガチの表向きの考え方「地球から原住民を排除する」と、ドゥガチのコンプレックスに発する真の狙い「地球そのものを破壊する」に、木星戦役後20年を経ていまだに乖離があるのは面白い。

 
ベスパ機関は、総力を挙げて作戦完遂に賭ける。
 
ピピニーデン率いるラステオ艦隊、クロノクル率いるモトラッド残存艦隊、そしてあのギロチンに架けられそうになったタシロ率いるタシロ艦隊、さらにエンジェル・ハイロゥの直援としてズガン率いるズガン艦隊――。
 
出しうる限り全ての戦力を投じ、戦争遂行にひた走る。
しかし、クロノクルやピピニーデン、そしてタシロは、意味の判らぬ作戦を次々と発動し、その度に自分たち青年司令官をこき使うカガチに対して反感を抱き始めていた。
そして、その内なる混乱を見透かしたかのように迫るリガ・ミリティアと連邦軍。ザンスカール最後の作戦に際し、ムバラク大将の下、遂に連邦軍も動き出したのである。
 
タシロに到っては、前の二人以上にカガチに強い憎しみを抱いていた。
彼はカイラスギリー防衛戦に敗北、一般には本国で処刑されたことになっている。
 
しかしその日彼は、ギロチンに架けられる寸前、リガ・ミリティアの本土空襲に乗じて逃げ出していた。カガチは言う。「タシロ、お前を殺すつもりはなかった。大衆へのカムフラージュだった」と。――そんな証拠はない。「あの空襲がなければ、自分は殺されていた!」。
 
タシロの叛意は頂点に達する。
彼はピピニーデンの戦死を確認すると、エンジェル・ハイロゥに後退。
カガチのもとよりマリアをさらい、一人逃走。帝国の乗っ取りを図るのだが――。
結局運に見放され、死後に生きた彼は、ついには本当の死を与えられてしまうのである。女王マリアもまた、この騒乱の中で命を落としている。
 

閑話休題「タシロ・ヴァゴとは一体何者だったのか」

カガチとズガンは木星船団時代からの盟友で、クロノクルとピピニーデンも、士官学校時代の先輩後輩の間柄である。
しかしタシロは違った。そもそもベスパとは、サイド2駐留の連邦軍とサナリィの一部を接収したものが母体となって生まれた組織である。
タシロは、そこからの流れ者なのではあるまいか。
 
文庫版において、ゾロのようなMSの名前はカガチ発案のものであり、彼がMSのイメージ(あの悪そうな狐目)が国民の戦意高揚に影響があると考えていない、との描写がある。いわば発想が古い。
しかしタシロは、ザンスパインのようなヒーローフェイスのMSを、カガチ排除後の新国家建設に役立てようとしていたことからも、MSが市民に与える影響力を強く認識していた、つまりMSに近いところで育ってきたことが分かる。
 
タシロの処刑は、文字通りの首切り、クロノクルやピピニーデンといった若手マリア主義者が台頭するにあたり、旧連邦閥を一掃してしまおうという、カガチの謀略だったのではあるまいか。

 
その後エンジェル・ハイロゥは地球への降下を果たすも、クロノクルやズガンがリガ・ミリティアに敗れ、カガチはエンジェル・ハイロゥに巻き込まれて行方不明に。
悲願であった最後の作戦も、「機械の反乱」という予期せぬ事態により失敗。
 
ここにベスパは壊滅し、指導層の人間を全て失ったザンスカール帝国が戦後どうなったかなど、もはや言うまでもない。
 
この戦い以降、地球圏は鎮まる。
一部で公国軍を名乗るゲリラ活動はあったものの、世界はその平和を謳歌していた。

俺レビュー:★★★★

「このDVDは、見られたものではないので買ってはいけません!!」――。
すごいですよね。
これ、精神的に煮詰まっていた当時を振り返っての、冨野監督本人の言葉です。
 
俺が観るところ、この作品は「極端」の話です。
お前達がガンダムを好きだというのなら、ガンダムをイナゴのように出すし、女の子が好きだというのなら、いろんなタイプの女の子をるーみっくかよ、というぐらい出す。
 
エライ人が言うのなら戦艦にタイヤだって履かせるし(このあたりは『ターンエーの癒し』に詳しい)、ギロチンだろうが超能力者だろうが水着のオネエサンだろうが(ニュータイプや強化人間の幅を越える、念動力的な超能力者を出さなかったのは監督の良心かも知れない)「極端」をやってのけています。
 
そんな作品をあなたは好きですか?
――という挑戦状(ただし『たけし』的な)です。
 
俺は大好きです。

この作品にまつわる俺のオススメ

このブログ内のガンダム歴史コラム記事リンク

ガンダムの歴史/序章~宇宙史の始まり

第1集~ 0079 一年戦争(ファーストガンダム)

第2集~ 0083 デラーズ紛争(0083)

第3集~ 0087 グリプス戦役(Z)

第4集~ 0088 ペズンの反乱(センチネル)

第5集~ 0088 ハマーン戦争(ZZ)

第6集~ 0093 シャアの反乱(逆襲のシャア)

第7集~ 0123 コスモ・バビロニア建国戦争(F91)

第8集~ 0133 木星戦役(クロスボーン)

第9集~ 0153 ザンスカール戦争(V)

第10集~ 0203 マハの反乱(ガイア・ギア)

第11集~ 0223 平成ガンダム以降(G・W・X)

ガイア・ギアとシャア・アズナブル(前編)

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Author ウェブデザイナー久川智夫

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