(前回からの続き)
――で、ここまではいいんです。
問題はこの人達。
ザンスカール帝国の指揮官を見てみましょう。
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エンジェル・ハイロゥの作戦が発動した当時の、ザンスカール帝国の主立った指揮官を列挙していきましょう。
・フォンセ・カガチ宰相……総指揮官。軍人としての階級なし。
・ムッターマ・ズガン大将……ズガン艦隊の司令。
・タシロ・ヴァゴ大佐……タシロ艦隊の司令。
・ファラ・グリフォン中佐……ラゲーン基地の司令。
・アルベオ・ピピニーデン少佐……ラステオ艦隊の司令。
・クロノクル・アシャー大尉……アドラステア艦隊の司令。
ズガンとタシロの間には、ほかに一体何人ぐらいいるんでしょうか。
タシロはカイラスギリー艦隊の司令官で、敗退後に率いたタシロ艦隊も大規模な艦隊でしたからね。
一方、アドラステアとラステオ両艦隊(モトラッド艦隊)を統括する「連合艦隊司令官」がもう一人ぐらいいても不思議ではなさそうですが…。
(ちなみに長谷川裕一先生のマンガにキゾという中将が出ています。彼は偽のマリアを擁立するという、本国の指揮官とは全く異なる動きをしているので、今回ははぶきます)。
エンジェル・ハイロゥ作戦発動時は、本陣にズガンのダルメシアン、ほかタシロ、クロノクル、ピピニーデンがさほど変わらない規模の艦隊が展開していたわけで、それぞれ大将・大佐・少佐・大尉って、やりづらいわ!
いわば、専務・部長・課長・係長に、みんなそれぞれ同じ数の部下がいて、同じぐらい大切な仕事を与えられているようなもんです。
これを解明するには、どう考えるか。
私の達した結論は、タシロやクロノクルが真っ当な階級であって、ズガンが異様に偉すぎる、木星時代の功績も込みで、彼は将官なのではないか、と。
ザンスカール帝国建国と同時に設立されたベスパ(国軍)ですが、ザンスカール戦争時点で建軍からわずか10年程度。
しかも、かつてのジオンのような大きな武勲の立てどころはありませんでした。
ジオンでさえ、シャアのようなよっぽどの個人的武勲がなければ出世できなかったのですから、ピピニーデン・サーカスのような「団体戦」を指揮したぐらいではあの程度、クロノクルも同様で、女王陛下の弟で士官学校卒というぐらいではあの程度だったのでしょう。
木星時代の功績+ザンスカール建国の諸戦闘での功績の合わせ技で、彼は大将なのではないでしょうか。
では、タシロはどうか。
私が唱えている「タシロ=サナリィ説」(タシロはザンスカールが接収したサナリィ支社のスタッフで、彼が開発させたザンスパインがガンダムフェイスなのが裏付け。ギロチン処刑未遂も派閥抗争による)が正しければ、「連邦閥からの引き抜き」という説明ができましょう。
彼はきっと、サナリィ・サイド2支社のリーダーか、連邦軍から出向した部隊のリーダーか何かだったのではないか。カガチから「ベスパ設立に力を貸せば取り立ててやる」と誘われて、あの地位にいるのではないでしょうか。
出典・傍証一切無し!
だけど、そう考えれば「タシロが出世した理由」と「出世できなかった理由」の両方が解決できるんですね。
真相はわかりませんが。
ザンスカールには、いくつもの派閥があります。
カガチやズガンら木星帰り派、タシロやファラらタシロ派、マリア・クロノクル姉弟、そしてピピニーデンやイクのような無所属グループ。
(このあたり、冨野作品はゴッツイよなあ。ターンエーのムーンレィスもディアナ派・フィル派・アグリッパ派・ギンガナム派と全然一枚岩じゃない)。
カガチの立場で考えますと、強い組織を作りたいなら「優秀な人材をバシバシ取り立てる」のが一番です。
しかし、彼はそう考えなかった。
クロノクルをガルマのように取り立てず、タシロをギロチンで粛清しようとした。これは、カガチが木星出身であるということと無縁ではないでしょう。
彼がドゥガチの暴政に加担していたのか、抵抗していたのかは分かりませんが、極端な弱者切り捨て・カラス先生の正義・公開処刑などの非人道的なやり口を間近で見てきたわけです(『ゴースト』では、エンジェル・ハイロゥを使って危険なウイルスを地球にばらまこうと画策しています)。
部下を取り立てるより、疑うほうに気が回る。
スターリンに学んだ、チョイバルサンとか金日成、ラーコシみたいなもんですな。
そんなリーダーをもった部下たちはどうなるか。
上は下を慈しまず、下は上を敬わなくなります。
クロノクルはタシロやカガチへの敵慨心バリバリだし、タシロは仲間を陰謀の道具としか見ていない。
注意しながら終盤のDVDを見ていると、呼び捨てだったり、「司令」としか呼び合わなかったり、階級をほとんど無視してツノを突き合わせているんですね。
これは、カガチのAH計画があまりに腑に落ちない作戦だったというのもさる事ながら、序列を無視した司令官登用への反発も多少なりともあったのじゃないかと感じさせるものでした。
そんな解釈で、ザンスカール帝国の階級は説明できるでしょうか。
――えっ? 結論に達していない?
ザンスカール帝国の階級が開きすぎているという理由?
・理由1「カガチの信頼する後方勤務の軍官僚が多く中将・少将に固まっていて、リガ・ミリティアと戦った経験のある実戦指揮官が不足していた」
・理由2「バグレ隊ほか連邦軍の抵抗が思いのほか強力な上、エンジェル・ハイロゥ建設にカネが掛かりすぎたので、高級将校に払うお手当、要は人件費が枯渇していた。低い俸給のままこき使おうとしていた」
こんなところじゃないでしょうか。
本当のところはわかりませんよ。
ハイ、Vガンダム終わり~。
で、その後のガンダムシリーズで特徴的な制度をもつ軍隊があるかというと、ガンダムWの特尉・特佐。
OZという特務機関の階級ながら、貴族という裏書きのある部隊なので、【下っ端でも正規軍の中尉相当】という、「ルフィーの親父が世界政府を倒そうとした理由がわかりますね」という組織に仕上がっています。
余談ながら、トレーズの「上級特佐」は、連合軍における少将。
ティターンズ同様「一階級上」の扱いを受けるとはいえ、OZの総帥が中将格なわけですね(ちなみに朴正煕が権力を奪取したときの階級が少将でした)。
そして、「特徴的な制度」といわれて思い出すのが、ガンダムXに登場した宇宙革命軍。
これは階級の話とはちょっとズレてしまうのですが、事実上のクラウド9軍ながら、クラウド9政府だの、宇宙革命政府だのといった呼称が出てこなかったところをみると、おそらく彼らの国号そのものが「宇宙革命軍」。これは斬新です。
政府が「救国軍事会議」と自称していても、国号は自由惑星同盟だったり、グバナン共和国だったりするわけで。ジオンの国号が「ジオン公国」じゃなくて「ジオン軍」だったらおかしいでしょう。
彼ら革命軍中枢の「我々は軍あっての政権だっ」という強い決意を感じますね。
では最後に、ターンエーガンダムを見ていきましょう。
これは別のコラムでも書きましたが、「ディアナカウンターには将官がいない説」というのは、大きな特徴だと思います。
長くなりますので、本当にこちらの「∀ガンダム解説~ディアナの地球帰還作戦はなぜ失敗した?」をご覧いただきたいのですが、このコラムでは、あきまん外伝で「なぜグアビィエ長官の隣にアジ大佐が座っていたのか」、本編では「なぜクーデター成功後のフィル少佐が大佐どまり(福井版)だったのか」を解き明かしています。
ヒントとなるのは、「スイス軍は大佐が最高位」、「建軍間もない頃の米海軍は平時編制の最高位が大佐だった」、といったあたりでしょうか。
今日はそんな「ガンダム階級論」のお話でした。
じゃあね。バイバイ!(人の挨拶)。
ガンダム階級論(前編)パプティマス・シロッコは大尉が妥当か?大佐か?
ガンダム階級論(後編)ザンスカール帝国の階級問題について考える!
逆説の黒歴史・人類黄昏編(前編)最終戦争とカイラスギリーの秘密
Author ウェブデザイナー久川智夫
せっかくなのでこちらの記事もご覧ください
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